こんにちは。
保育の現場にいると「自分一人で頑張らなきゃ」と気づかないうちに背負い込んでしまうこと、ありませんか?
ある先生はこう話してくれました。
「同僚に迷惑をかけたくなくて、体調が悪くても無理して出勤してしまうんです。結局、保育中に動けなくなって、逆にみんなに迷惑をかけてしまいました」
また別の先生は、
「自分だけが大変だと思われたくなくて、仕事を抱え込んでしまう。でも気づいたら涙が止まらなくなっていた」
と話してくれました。
「助けを出す」ことが苦手な保育士さんは、本当に多いのです。
1. 「助けを出す」とは?
助けを出すとは、自分の限界やしんどさをチームに共有することです。
それは「弱さ」ではなく、チームで保育をするために欠かせない力です。
たとえば…
- 「今日は体調が少し悪いので、外遊びはお願いできますか?」
- 「この子の対応がうまくいかなくて悩んでいます。一緒に考えてほしいです」
- 「ちょっと手が足りません。手伝っていただけますか?」
こうした一言が、周囲にとっては“協力するきっかけ”になります。
2. なぜ助けを出すのが難しいのか?
助けを出すことは本来、自然で健全なことなのに、実際には難しく感じてしまう保育士さんは少なくありません。
その背景には、個人の心境と職場環境の影響が重なっている場合があります。
心境として考えられること
- 「自分が頑張らなければ」
→ 責任感が強く、まじめで誠実な先生ほど、自分が引き受けることでクラスや同僚が助かると信じてしまう。結果として「お願いする=怠けている」という誤解につながることがあります。 - 「迷惑をかけたくない」
→ 周りも忙しいことがわかっているからこそ、「これ以上負担を増やしたら申し訳ない」と遠慮してしまう。実際には“お願いされることで自分の役割を果たせる”と感じる同僚もいるのですが、そこに気づきにくい状況です。 - 「弱いと思われたくない」
→ 自分が頼ると「できない人」と見られてしまうのではないかという不安。特に経験年数が長くなったり、リーダーの立場に近づくほど「頼ってはいけない」という思い込みが強くなることもあります。
環境として考えられること
- 忙しさが当たり前の雰囲気
→ 先生たち全員が常に走り回っていて「助けて」と言い出す隙間がない。そうすると「結局自分で抱えるしかない」と感じてしまいやすいのです。 - 「お願い」が悪いことのように扱われる空気
→ 過去に「自分でやってよ」と突き放された経験があると、それが心のブレーキになってしまいます。頼む前から「また嫌がられるのでは」と予測してしまうのです。 - 助け合いの仕組みが見えにくい
→ 役割分担や引き継ぎが曖昧だと、「これを頼んでいいのかな?」と迷ってしまう。曖昧さが“頼みにくさ”を増幅させる場合があります。
こうした心境や環境が重なって、助けを出すことは「できないこと」ではなく「勇気がいること」になっているのだと思います。
3. 専門家として見えてきたこと
私は産業保健師・公認心理師として、職場でのメンタルヘルス相談を数多く受けてきました。
その中で強く感じるのは、「助けを出す力」はスキルであり、トレーニングで身につけられるということです。
ある保育士さんは「弱音を吐くのが苦手で、全部抱え込んでパンクしてしまった」と言っていました。
その後、少しずつ「今日はここまでで精一杯です」と伝える練習をするうちに、次第にチームとの関係が柔らかくなっていきました。
助けを出すことは、人間関係を壊すのではなく、むしろ信頼を深めることにつながるのです。
4. 助けを出すための工夫
では、どうしたら少しでも「助けを出しやすい」状態に近づけるのでしょうか。
ここでは3つの工夫を挙げ、それぞれに具体例と意味づけを添えてみます。
工夫①:小さな一言から始める
具体例
- 「トイレ誘導のあと、少し見ていただけますか?」
- 「お昼の準備、あと一人分手があると助かります」
- 「この子が落ち着くまでの間だけ、フォローしてもらえますか?」
意味づけ
- 「大きなお願い」ではなく「一時的・部分的なお願い」から始めると、相手も受け入れやすく、自分も罪悪感を持ちにくい。
- 小さな一言を繰り返すことで「頼んでもいいんだ」という感覚を少しずつ育てられる。
工夫②:事実だけを伝える
具体例
- 「今日は熱があって、いつもより動けません」
- 「声が枯れていて、大きな声が出しにくいです」
- 「昨日から疲れがたまっていて、集中力が続きません」
意味づけ
- 「しんどい」と感情だけで伝えると、自分が弱く見られるのではと不安になることがあります。
- 事実に焦点を当てることで、相手も状況を理解しやすく、自然に対応が生まれやすい。
- 「事実を共有すること=チームに情報を渡すこと」と考えれば、責任感の強い先生ほど伝えやすくなる場合があります。
工夫③:“お互いさま”を思い出す
具体例
- 「この前手伝っていただいたので、今日は私に任せてくださいね」
- 「〇〇先生が助けてくれたから、安心して次の仕事に移れました」
- 「みんなで声をかけ合っているから、この園は回っているんですよね」
意味づけ
- 自分だけが頼っているのではなく、助け合いは日常の一部。
- 「お願いする」ことは負担ではなく、相手に役割を渡すことでもある。
- お互いさまを意識することで、助ける・助けられるが対等な関係になる。
補足
助けを出すことが難しいのは、個人の責任感や不安と、職場の空気や仕組みが影響しているからかもしれません。
だからこそ、工夫は「頼み方を変える」だけでなく、「意味づけを変える」ことが大切です。
助けを出すことは弱さではなく、チームで保育を続けるための健全なスキルと考えていただければと思います。
5. まとめ ― あなたに伝えたいこと
「助けを出す」ことは弱さではありません。
それは、チームで保育を続けていくための大切な力です。
どうか「助けを出すことは信頼を深める行動」と思ってください。
そして、あなたが助けを求めることは、きっと誰かの安心にもつながります。
最後に
「助けを出す」ということは、決して自分が弱いからでも、足りないからでもありません。
それは、あなたが真剣に子どもと向き合い、仕事に誠実だからこそ抱えてしまう葛藤なのだと思います。
どうか忘れないでください。
助けを出すことは“心の甘え”ではなく、未来の子どもたちのために保育を続けていく力につながります。
誰かにお願いするとき、そこには「信頼」や「一緒にやっていきたい」という気持ちが込められています。
だから、助けを出すことはむしろチームを強くし、安心できる職場をつくる一歩なのです。
明日もまた子どもたちと笑顔で向き合うために。
どうか自分の声を小さくでも出してみてくださいね。
その一言が、あなた自身を守り、そして子どもたちを守ることにつながっていきます。

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