こんにちは。保育士さんの毎日は、子どもたちの感情に寄り添う時間の連続ですよね。
ある先生が、こんなことを話してくれました。
「朝から泣いて登園する子のそばにずっとついていたら、自分まで悲しくなってきて……。帰りの電車でも、あの子の顔がずっと頭から離れないんです」
別の先生はこう言いました。
「発達に心配のある子に強く関わっているうちに、“あの子がうまくいかないのは自分のせいなんじゃないか”と思ってしまって。家に帰ってからもずっと考えてしまうんです」
このように、子どもの感情や状況を“自分のもの”のように背負い込んでしまうのは、保育の現場では珍しくありません。
ここで大切なのが、「共感」と「同一化」の違いです。
1. 「共感」とは?
共感とは、相手の気持ちを理解し、その気持ちに寄り添って表現することです。
「あなたの気持ちをちゃんと受け止めていますよ」と伝える力ともいえます。
たとえば…
- 子どもが転んで泣いたとき:「痛かったね。びっくりしたね」
- 「ママがいい!」と泣く子に:「お母さんに会いたい気持ち、わかるよ」
このとき、先生自身が泣き崩れる必要はありません。
むしろ落ち着いている先生がそばにいることこそが、子どもにとって安心になります。
2. 「同一化」とは?
一方、同一化とは相手の気持ちを自分の気持ちとして抱え込んでしまうことです。
子どもの感情と自分の感情の境界線がなくなり、混ざり合ってしまう状態です。
たとえば…
- 子どもが泣いていると、自分まで胸が苦しくなり「どうにかして泣き止ませなきゃ」と焦ってしまう。
- 発達に不安がある子に対して「あの子ができないのは自分のせいだ」と過剰に責任を背負う。
- 子どもの不安が頭から離れず、夜になっても眠れない。
これは心が弱いからではなく、誠実で子どもを大切に思っているからこそ起こることなのです。
3. 共感と同一化の違いを具体例で
より身近な場面で違いを見てみましょう。
- 泣いている子ども
共感:「悲しい気持ちなんだね。先生がいるから大丈夫だよ」 → 子どもは安心できる
同一化:「この子が泣いているのがつらすぎる、私も苦しい」 → 保育士自身が消耗する - ケンカをしている子ども
共感:「嫌だったんだね」「ケンカすると悲しいよね」 → 双方の気持ちを受け止められる
同一化:「私の関わり方が悪かったんだ」 → 自分を責めてしまう - 発達に不安がある子
共感:「この子はこの子なりに頑張っている」 → 落ち着いて支援を考えられる
同一化:「あの子ができないのは私のせいだ」 → 過剰な責任感で疲れ果ててしまう
4. 専門家として見えてきたこと
私は産業保健師・公認心理師として、保育士さんの面談をしてきました。
その中で、「子どもの気持ちが自分の心に乗り移ってしまう」という声を何度も聞いています。
ある方は「子どもの感情を全部背負ってしまって眠れなくなった」と涙ながらに語ってくれました。
そのとき強く感じたのは――
境界線を持つことは冷たいことではなく、むしろ子どもを守ることにつながるということです。
5. 感情を“預けすぎない”ための工夫
では、どうすれば「共感」と「同一化」を切り分けられるのでしょうか。
工夫①:気持ちを言葉で区切る
「〇〇ちゃんは悲しかったんだね。先生はそれを見て心配になったよ」
→ 子どもの気持ちと自分の気持ちを言葉で分けて表現する。
工夫②:身体を使って切り替える
- 少し離れて深呼吸をする
- 窓の外を眺めて空気を入れ替える
- 両手をぎゅっと握ってパッと開く
身体の動きを使うと、境界線を引き直しやすくなります。
工夫③:“持ち帰らない儀式”をつくる
- 保育室を出るときに「今日はここまで」とつぶやく
- 玄関で一礼して切り替える
- 手を洗うときに「気持ちを流す」とイメージする
小さな習慣が、「ここからは自分の時間」という線引きにつながります。
6. あなたに伝えたいこと
子どもの感情に巻き込まれないことは、決して「冷たい」ことではありません。
むしろ、自分の心を守ることは 明日も笑顔で子どもと向き合うための力になります。
どうか「自分を守ることは、子どもを守ることでもある」と覚えていてください。
それが“感情を預けすぎない”ケアの第一歩です。
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